
5月の晴れた日曜日、毎年恒例の「クラフトフェアまつもと」に足を運んだ。
今年も多くの来場者でにぎわい、全国から集まったクラフト作家たちが、美しい芝生の上に作品を並べていた。
毎年のことだが、塾生たちにも見学に行くように仕向けてある。目的は二つある。一つは、たくみ塾OBたちの現在地を見届けること。もう一つは、今のクラフト界のトレンドを肌で感じ取ることだ。
現地では、作品そのものだけでなく、作家と来場者の関係性や空気感からも多くのことが見えてきた。来場者は、単なる消費者ではなく、作り手の想いや哲学に触れ、共感し、対話を通じて購入を決めている場面が多く見受けられる。
つまり、今のクラフトシーンにおいて求められているのは、単なる“モノ”ではなく、作り手の価値観やライフスタイル、そこに込められたストーリー。作家たちも、単に売ることを目的とするのではなく、自分の考えや姿勢を発信し、理解者や共感者とのつながりを深める場としてこのフェアを活用しているようだ。
塾生たちには、こうしたクラフトフェアの空気感そのものを体験してほしいと思っている。「作って売る」だけではない、「伝える」「感じてもらう」「関係を築く」といった現代のクラフトのあり方を学ぶには、こうしたリアルな現場が最も力を持つ教材だ。
OBたちの姿に見る“その先”
今回のクラフトフェアでは、たくみ塾のOB3組が出展していた。いずれも、すでに中堅の木工家として着実に歩みを進めており、その姿から「職人としての次のステージ」を学ぶことができた。
彼らが出展する目的は、単なるその日の売上ではない。むしろ、それ以外のことを求めての出展だ。作品そのものはもちろん、ブースの構成や接客の姿勢にも、そうした意図がにじんでいた。


特に印象的だったのは、夫婦で作家活動をしている2組の動きだ。それぞれに、今回は奥さんの販路に力を入れており、家庭単位でブランドとしての展開を意識している様子がうかがえた。

こうした「現場のリアル」は、ブログなどの公開の場では詳しくは書けない部分もある。だからこそ、講座では初級生たちに、実際に見てきたこと、感じたことをしっかりと伝えていくつもりだ。作家として歩んでいくために必要な“戦略”は、机上の空論ではなく、リアルな先輩たちの姿の中にある。
「トレンドを追うな、創れ」
クラフトフェアの見学で、塾生たちに一番伝えたかったのは、「流行に乗る」ことの危うさだ。すでに市場でブームとなっているカテゴリーに、今さら飛び込んでどうするのか。たくみ塾の塾生には、むしろ“次の流行”を生み出す火付け役になってほしい。
実際、今回出展していたOBたちの仕事には、その片鱗が見られた。彼らは、ただ流行の形をなぞるのではなく、自分の表現を貫きながら、確かな技術と感性で「新しい提案」をしていた。その姿勢が、クラフトフェア全体の空気に少なからず影響を与えていたように思う。
講座では、塾生たちにその具体例を紹介しながら、「職人が世の中に与える影響」について考えてもらいたい。職人はモノを作るだけの存在ではない。感性や思想を形にして、人々の暮らしや価値観に新しい風を吹き込む存在だ。
今あるものをなぞるのではなく、自分の中にある感覚を信じて形にする――それこそが、たくみ塾生に求めたい“創造の姿勢”である。
小木曽 賢一
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