
昨年のことですが。
手作業場で初級生が、部材を手磨きしていました。作業台の端にはスマホが置いてあり、画面にはストップウォッチ。部材を1枚磨くごとに、さっとタイムを確認しています。
作業ペースに意識があっていいですね。でも、動きにどこか焦りがある。
どうやらスタッフに「遅い、もっと早くやれ!」と言われたばかりのようです。
そんなとき、よくあるんです。
言われた塾生の側は「もっと早くやらなきゃ」と思って、ぐっとスピードを上げる。
けれどその結果――仕上がりが雑になって、それまでに磨いた部材が“全部やり直し”になる。
この“全部やり直し”の衝撃は、実際に経験するとかなりこたえます。
でも、これが現場で学ぶということ。
ここで大切なのは、ただスピードを上げることじゃない。
本当に必要なのは、自分の動作の中にある「ムダ」を見つけて、少しずつ省いていくこと。
そして、その動きを淡々と繰り返して、体に染み込ませていくことなんです。
ここで言う、「ムダ」って何か。
・部材を持ち替えたり、持ち直したりする手間
・作業台のレイアウトが悪くて、いちいち手を伸ばさなければならない位置にある部材
・仕上りの確認に、光にかざして角度を変えながらの目視確認
こういった小さな“ムダ”が、結果的に大きなロスになります。
でも逆に言えば、こうしたムダを一つずつ見直していくだけで、作業の質もスピードも自然と整ってくる。

タイムを測るのは、その“ムダ”に気づくためのひとつの手段です。
時間短縮だけを追いかけているのではなく、自分の動きの中にどんなクセやロスがあるかを見える化することが目的なんですよね。
「数ものをこなす」とは、単に回数をこなすことではありません。
所作を体で覚えること。そして、動作のムダをひとつずつ省くこと。
この2つがそろって、はじめて「できる」につながります。
もし、あなたが何かを繰り返していて、思うような手応えがないと感じたら――
ぜひ、自分の動作や段取りに目を向けてみてください。
改善のヒントは、いつも“手元”にあるものです。
小木曽 賢一
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