
「今日は、バフ掛けの手が悩んでませんね。その手つき、もう身体が覚えてきてますよ。」
そう声をかけたとき、彼女の手がふと止まり、集中していた顔に笑顔が浮かびました。
最初は、慣れないバフの音にビクビクしていて、ぎこちない手つきだったんです。
「コツが掴めない!」って。
でも今では、狙った場所をすっと自然に、正確に研磨できるようになっている。
ああ、もう“手が先に動いている”んだなって、そう感じた瞬間でした。
オールサンダー(通称バフ)での研磨作業は、見た目よりずっと繊細で、奥が深いんです。
手返しの順序が定まっていないと、クルクルと部材を持ち替えるばかりで余計な手間がどんどん増えてしまいます。
部材の面を均一に仕上げるには、研磨ムラをできるだけ出さないように、当てる位置、力加減、スピードに気をつけなければいけません。
でも、ムラを一つひとつ目視で確認していたら、とても時間が足りません。
だからこそ、最初はスタッフのお手本どおりに、材料の動かし方や手返しの所作を、一つひとつ意識しながら、丁寧に、正確に、順序よく繰り返していくことが大切なんです。
でも、最初は誰だって頭がいっぱいになりますよね。
「次はどの面だったっけ?」
「研磨ムラ、出てないかな?」
そんなふうに、不安になりながら手を動かしているんです。
けれども、毎日何十枚、何百枚と同じ作業を積み重ねていくうちに、あるとき、ふと気づくんです。
あれ?って。
「考えるより先に、手が動いてる!」
次にどう動くかっていう判断が、頭じゃなくて身体から出てくる感覚ですね。
「掴めた!」って。
そうなったとき、表情がふっと変わるんですよ。
手の動きも、目の奥の光も。
そして、作業台の上には「練習の途中」ではなく、「商品としての完成品」が並びはじめます。
もちろん、これはただ“慣れた”というのとは違います。
毎回、真剣に向き合って、「どうすればもっと良くなるか?」を考え続けてきたからこそ。
“手と感覚と意志が、ひとつになってくる。”
そんなタイミングが、誰にでもちゃんとあるんです。
この「手が覚える」感覚が育ってきて、ようやく次のステージ――スピード感を意識できる段階へと進めます。
そうやって、無意識に身体が自然に動くようになる瞬間を、少しずつ積み重ねていくんです。
そして、自分の中に、静かで確かな自信が生まれてくる。
「バフをかける」だけの作業だったはずが、
「商品を仕上げる仕事」へと、いつの間にか変わっていく。
この変化を経験した人だけが、本当の意味で“作り手”になっていくんだと思います。
だから、現場って、本当に大切なんです。
いつか、あなたにも、自分の手が自然に動き出す瞬間を味わってほしい。
それは、頭では理解しきれない「プロの感覚」が、あなたの身体の中にそっと芽生える、とても特別な瞬間なのですから。
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