コラム

モノづくりへの誘い③ 個性は、型の先ににじみ出る

モノづくりへの誘い③ 個性は、型の先ににじみ出る

最近、「自分らしく」という言葉をよく耳にする。

でも、職人の世界では少し意味が違う。

初めから個性を出そうとする者は、たいてい長くは続かない。

たくみ塾では、まず「決められたことを、決められた通りにできるようになる」ことを徹底して教える。

それは、言われた通りに動く訓練ではない。

どんな作業も、同じ精度で、同じ結果を出せるようにすること。

その積み重ねが、職人の基礎体力になる。

面取り一つ、削り一つ。

0.1ミリの誤差もなく、誰が見ても同じように仕上げられるか。

そこを揃えることこそ、最初の壁だ。

多くの塾生がこう言う。

「何も考えずに、同じことを繰り返すのがつまらない」

でも、それを通らずして“自分の仕事”には辿り着けない。

あるOBは言っていた。

「塾にいた2年間は、自由よりも制限の連続だった。

でも、卒業して初めて気づいた。あの制限が、自分を鍛えてくれたって。」

型の習得とは、創造の前段階だ。

型の中で身体を使いこなせるようになった人だけが、素材の声を聴く余裕を持てる。

そうして初めて、自分の感性が自然と表に出てくる。

たとえば、同じ木を削っても、全員の仕上がりが少しずつ違う。

その“違い”を意図して出せるようになったとき、それはもう「個性」ではなく「技」になる。

言い換えれば、個性は出すものではなく、にじみ出るもの。

職人にとっての個性とは、感情やセンスの表現ではなく、正確さの中に滲む人間らしさだ。

初級の1年目は「できるようになること」。

中級の2年目でようやく、「どう作るか」を問う。

その順番を間違えると、どれだけ才能があっても土台が育たない。

基礎を身につけるのは、地味で退屈かもしれない。

でもその中で、「木が言うことを聞いてくれる瞬間」を体で覚える。

それが、職人としての最初の自信になる。

個性とは、努力の量が形を変えて現れたもの。

そして、同じを積み上げた人だけが“違い”を生み出せる。

たくみ塾では、誰もが最初は同じ課題をこなす。

その中で、自分の手癖や考え方のクセを知る。

直そうとするうちに、「自分」が磨かれていく。

塾を出るころには、全員の仕事が違って見える。

けれどそれは、最初から個性を追いかけた結果ではない。

型を守り抜いた者にだけ現れる自然な差。

まずは、型を身につけよう。

同じを積み上げた先で、自分だけの“違い”が見えてくる。

「一歩を踏み出す準備ができたあなたへ」——

型を超えて、自分の生き方としての木工へ踏み出す話をしよう。

The following two tabs change content below.

小木曽 賢一

代表取締役株式会社たくみ塾
森林たくみ塾 塾長 株式会社たくみ塾 代表取締役 オークヴィレッジ株式会社   制作部 生産管理係長   シルヴァンの森推進委員長
URL
TBURL

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

Facebookコメント欄

Return Top

Solverwp- WordPress Theme and Plugin