
最近、「自分らしく」という言葉をよく耳にする。
でも、職人の世界では少し意味が違う。
初めから個性を出そうとする者は、たいてい長くは続かない。

たくみ塾では、まず「決められたことを、決められた通りにできるようになる」ことを徹底して教える。
それは、言われた通りに動く訓練ではない。
どんな作業も、同じ精度で、同じ結果を出せるようにすること。
その積み重ねが、職人の基礎体力になる。
面取り一つ、削り一つ。
0.1ミリの誤差もなく、誰が見ても同じように仕上げられるか。
そこを揃えることこそ、最初の壁だ。
多くの塾生がこう言う。
「何も考えずに、同じことを繰り返すのがつまらない」
でも、それを通らずして“自分の仕事”には辿り着けない。
あるOBは言っていた。
「塾にいた2年間は、自由よりも制限の連続だった。
でも、卒業して初めて気づいた。あの制限が、自分を鍛えてくれたって。」
型の習得とは、創造の前段階だ。
型の中で身体を使いこなせるようになった人だけが、素材の声を聴く余裕を持てる。
そうして初めて、自分の感性が自然と表に出てくる。
たとえば、同じ木を削っても、全員の仕上がりが少しずつ違う。
その“違い”を意図して出せるようになったとき、それはもう「個性」ではなく「技」になる。
言い換えれば、個性は出すものではなく、にじみ出るもの。
職人にとっての個性とは、感情やセンスの表現ではなく、正確さの中に滲む人間らしさだ。
初級の1年目は「できるようになること」。
中級の2年目でようやく、「どう作るか」を問う。
その順番を間違えると、どれだけ才能があっても土台が育たない。
基礎を身につけるのは、地味で退屈かもしれない。
でもその中で、「木が言うことを聞いてくれる瞬間」を体で覚える。
それが、職人としての最初の自信になる。
個性とは、努力の量が形を変えて現れたもの。
そして、同じを積み上げた人だけが“違い”を生み出せる。
たくみ塾では、誰もが最初は同じ課題をこなす。
その中で、自分の手癖や考え方のクセを知る。
直そうとするうちに、「自分」が磨かれていく。
塾を出るころには、全員の仕事が違って見える。
けれどそれは、最初から個性を追いかけた結果ではない。
型を守り抜いた者にだけ現れる自然な差。
まずは、型を身につけよう。
同じを積み上げた先で、自分だけの“違い”が見えてくる。
「一歩を踏み出す準備ができたあなたへ」——
型を超えて、自分の生き方としての木工へ踏み出す話をしよう。

小木曽 賢一
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