
先日の休憩時間に耳にした、熟練スタッフと新米スタッフの会話だ。
今回の板接ぎ、なんでこんなに巾が広いの?
過去の記録に書いてあった寸法で木取りしたんですけど。
こんなに巾が広いと、歩留りも悪いじゃない。そもそも過去の記録なんて、誰がいつどんな状況のもとでやったか判らないじゃない。その記録を見た上で、君自身はどう判断したんだい?
・・・。
さてこの会話を、あなたはどう捉えるか?
そもそもたくみ塾には、ちゃんとしたマニュアルがない。
毎回スタッフが工程を組み立てては制作にあたっている。
だから、担当スタッフが変われば作り方は変わるし、資料には前回のメモ書き程度のものが残っているくらいなのだ。
マニュアルをちゃんと整備すればいいのに、とこれまでに何度思ったことか。
そうすれば、悩むことなくマニュアル通りにできるかもしれない。
失敗も間違いも少ないかもしれない。
しかし、マニュアルを整備すると、職人として考える力を養うことができないのではないか。
マニュアルでは職人は育たないとの思いが、マニアル化を思い留まらせている。
日本の学校では、問題と答えは「1:1」の世界を学んできただろう。
問題Qに対して初めからAという答えが用意されている世界であり、いかに早く答えを出すかが求められる能力だ。
だから「暗記力」が重要視される。
しかしながら、木工の世界は「1:多数」の世界だ。
問題Qに対して、想定される答えはひとつではない。
A1.A2.A3…と多数想定される中から、あらゆる状況を加味しながらベストな解を選択して実行する。
そして求める結果を得るのだ。
だから、木工に暗記は通用しないし、マニュアル化しにくいとも言える。
常に新しい問題に対して答えを導き出す「判断力」が求められるのだ。
たくみ塾生には、「1:多数」の世界観を構築することが日々求められるのだ。
なぜなら、これからの持続可能な社会を担う人材に必要な思考だからだ。
考えろ、考えるんだ。
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